自己帰属感の生起過程の研究

GUIやビデオゲームの画面では、ポインタやアバターなどが映像空間に登場し、操作者の身体運動によってそれらを操作するインタフェースの有効性が広く知られています。こうした自己の身体運動を可視化して示すインタフェースが有効である大きな理由は、操作者が自己の運動と視覚的な対象の運動(視運動)との随伴関係を認知し,自分の身体であるかのように操ることができるためで、このような外界の対象が自己の身体の一部のように感じられるような感覚は一般的に“自己帰属感”(self-attribution) と呼ばれます。

本研究室では、この自己帰属感がどのよう過程で生起するかについて研究を行っています。

クランクハンドルを用いた回転操作の実験では,能動的運動に対する予測の自己帰属感の生起への有効性を調査しました。

一般的に自己帰属感は身体運動と視運動の空間的な整合性が崩れると生起しにくくなることが知られています。

回転運動を利用することで、身体運動と視運動の空間的な整合性が崩れた状況でも、運動の予測と視運動の随伴関係が保たれた状況を作ることができます。それを利用して、多義的なアニメーションの解釈の変容を用いた課題や複数の運動オブジェクトから自己が操作するオブジェクトを抽出する課題を行い、予測は保たれていながら空間的な整合性が崩れた状況で自己帰属感が生起するかを調査しました。

実験の結果から、自己の運動と視運動の空間的な整合性が崩れた状況でも、実験環境のような自己運動の予測と視運動の随伴関係が認知しやすい状況では自己帰属感が得られやすいことがわかりました。

 

自己帰属感の生起や身体イメージの認知についての研究において、自己運動の予測の影響についての調査は興味深いテーマであり、本研究の知見は、VRやインタフェースの設計のほか、リハビリテーションやスポーツのトレーニングなど、身体運動を利用する様々な場面への応用が期待できます。

 

論文

能動的回転操作における自己帰属感の生起過程の分析” 齊藤寛人, 福地健太郎:  日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol. 22 (2017) No. 1 p. 81-90