コンピュータの入出力環境では、入力から出力までの過程の各段階で遅延が発生します。遅延の少ない環境ほど入力精度が高くなり、快適に操作できることが知られており、ハードウェア・OS・ユーザーアプリケーションのそれぞれで遅延低減の工夫が必要となります。HCI分野においても遅延の問題は注目されており、入力デバイスやディスプレイの表示遅延が与える影響が議論されています。
しかしながら、HCI研究や知覚心理学・認知科学の研究で用いられる実験システムにおける遅延の影響は、その問題が指摘されているにも関わらずあまり省みられていません。反応速度における10ミリ秒単位の差を検討する実験もある一方で、実験システムでは40ミリ秒程度のランダムな変動が容易に起こりうるため、実験システム設計時の注意が必要です。そこで本研究では、市販のゲームコントローラおよび液晶ディスプレイを対象に、フォトカプラとフォトトランジスタを用いた遅延測定機器を作成し、様々な条件下での遅延測定を行いました。
測定システムと結果

上図は開発した計測システムの概要です。フォトカプラでコントローラのボタン入力を生成し、それに応じてディスプレイの一部を点灯させ、フォトトランジスタで検出することにより入力から出力までの遅延を測定します。
測定の結果、コントローラの応答性能は製品によって30ミリ秒程度の差が生じうること、液晶ディスプレイは高フレームレートのものを用いることで遅延を最大20ミリ秒程度まで抑制可能であることがわかりました。一方で遅延の変動幅が40ミリ秒程度あることも明らかになりました。加えて、ソフトウェアの作り方次第でフレーム単位での遅延が発生することや、実験用アプリケーションの画面がウィンドウ表示かフルスクリーン表示かで遅延が変化することも判明し、実験システム設計で考慮すべき重要な知見を得ることができました。
