背景
近年のコンピュータゲームは複雑化が進み、初めて遊ぶプレイヤーが理解すべき情報量も増加しています。そのため、ゲーム開始時のチュートリアルの重要性が高まっています。
チュートリアルでは、プレイヤーの注意を操作対象へ導くためにさまざまな手段が用いられます。たとえば、操作すべきボタンの色を変えたり点滅させたりする方法や、画面全体を暗くしつつ操作すべき領域だけを明るく残す「フォーカス」演出などがあります。こうした手法は広く使われている一方で、その効果や適切な提示タイミングについては十分に検証されてきませんでした。
チュートリアルが伝えるべき情報は大きく二種類に分けられます。一つは「どのボタンを押すか」という位置情報、もう一つは「そのボタンがなぜ必要なのか」という意味情報です。
強い視覚的誘導を伴う提示手法を使うと、プレイヤーの注意はすぐに操作対象へ引き寄せられます。しかしその結果、テキストによる説明が十分に読まれないまま操作が完了してしまうおそれがあります。逆に誘導を弱めすぎると、目標を探す時間が長くなりストレスにつながります。
実験内容
本研究では、提示手法と提示タイミングの2つの要因を組み合わせた視線追跡実験を行いました。
提示手法:
- ボタン変色:操作対象のボタンの文字色を変化させる、実装が容易で軽量な手法
- フォーカス:画面全体を暗転させ、対象ボタン周辺だけを明るく残す、注意を強制的に集中させる手法
提示タイミング:
- テキスト表示中提示:説明テキスト中にボタン名称が出現した瞬間に提示を開始
- テキスト表示終了後提示:テキストの全文表示が終わってから提示を開始
これらを組み合わせた4条件で、大学生8名(有効データ)を対象に実験を実施しました。
実験結果
テキスト表示中に提示を行う条件(ボタン変色・フォーカスとも)では、提示直後に視線が目標ボタンへ誘導された後、再びテキスト表示領域へ戻る挙動が観察されました。すなわち、位置確認と説明文の読解が両立していることが示唆されました。一方、テキスト表示終了後に提示する条件では、テキスト中にボタン番号が示された時点からプレイヤーが自力でボタンを探す行動を始めるため、探索行動が長引き、テキスト表示領域への注視時間が短くなる傾向が見られました。
提示手法の違いについては、フォーカスは視線誘導のタイミングが被験者間で揃いやすく、ボタン変色は個人差を含みつつも読解と併存しやすい軽量な手掛かりとして機能しました。
本研究の結果から、提示の「強さ」よりも「タイミング」が注意配分に大きく影響することが明らかになりました。詳しくは論文を御参照ください。
